いろはにほへと
濡れた瞳
ひなのの屋敷で嫌だったことは、二つ。
一つは屋敷に居る虫。
もう一つはご飯に居る虫。
朝シャンしていると、足をムカデに刺された。
虫は苦手だ。
情けないと言われようが、構わない。
大騒ぎしてひなのに助けを求めると、ひなのはあからさまに嫌な顔をした。
薬を塗って欲しいとお願いしても、絶対に塗ってくれなさそうな態度を全身で表わしている。
でも台所でちょうど鉢合せしたので、いつもの馬鹿っぷりでひなのにもう一度頼むと、意外なことにひなのは囲炉裏の横に足を出して見せるようにと言った。
ぽんぽんと恐る恐るピンセットを使うひなのを見ながら―。
もう少し顔が見たいなぁと、何気なく思った。
だって、まだひなのの目を見ていない。
―邪魔だな、あの前髪。
そうは思っても、ひなのは見られるの自体嫌みたいだから、怒るだろうな。