いろはにほへと
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「なんで帰ってくる気になったの?」




俺が戻ってから、二週間が経った。



ライブ直前の控え室でギターのチューニングをしていると、孝祐がやってきて隣に座る。




忙殺される程のスケジュールをすっぽかしたにも関わらず、ルーチェのメンバーは誰も俺のことを怒ったりしてなくて、むしろ良い休みになればそれでいいと思っていたと口々に言った。



様々な打ち合わせや段取りは、しっかりと進められていた。



勿論、他の関係者や社長とかからは、こっぴどく叱られて、こってり絞られた。





「まこちゃんがさ、遥本人から電話もらったって言ってたけど。まさかライブに間に合わせる気だった?」





俺は曖昧に頷く。




「まぁ…最初から、九月には帰ってくるつもりだったよ。」





「ふーん?にしたって、リフレッシュしてきた人とは思えないほど元気がないね。」





孝祐はそう言ってから、急にくすくすと笑い出した。





「あの熱狂的なファンの子が、遥捜しにあんな山奥まできちゃったら、帰るしかないか。」






―ほんと、なんでバレたんだろうなぁ。




あと少しだけ、傍に居たかったのに。
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