いろはにほへと
けど。



こんなとこまでくるとか超怖い。



門の前でノックしながら俺の名前を連呼するから、見つかったら絶対嫌だと思って、庭の植え込みに潜んで様子を伺っていた。




ファンの子の情報網には確かに舌を巻くけれど。




ということは。



早川はもうとっくに居場所を突き止めているだろう。





―タイムオーバーだな。




そう思って、気持ちにふんぎりをつける時だと理解する。





それなのに。




厄介なファンを追い払ってくれたひなのに感謝した俺に。




「あの人、誰ですか」





ぶすっとした表情で、つっけんどんに訊くひなの。



そんなこと訊ねられるなんて思ってなかった俺に微かに動揺が走る。



だって。




何て答えりゃいい?



熱狂的なファンですって言えばいい?



今まで黙ってただけ、こんな展開になってから言うとか、やだし。






押し黙った俺に、尚もひなのは訊ねる。





「…恋人、、ですか?」




「!!」





どうしよう。激しく違うと言いたい。




そんな俺の反応をどう解釈したのか、ひなのの顔が少し自嘲するように歪んだ。
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