いろはにほへと
をわりとはじまり
季節は巡って、冬になった。
雪はまだ降らないけれど、降ってもおかしくない寒さだ。
セーラー服に、黒いタイツをしっかり履いて、紺色のカーデにくるまる。
「中条さん!」
図書室に向かう廊下の途中で、自分を呼ぶ声に振り返ると、澤田が手を振ってこちらに走ってくる所だった。
「澤田さん…」
夏のコンビニ雑誌事件の日から、澤田さんとは時々会話するようになって、今ではルーチェ仲間だった。
どうも、熱狂的なファンなんだと勘違いされたようだったけれど、詳細を話すと絶対に誤解を招きそうなので、もう少し経ったらいつか話せたらいいなとは思っている。
「ルーチェ!新曲、聴かない???!!!」
「え。」
相変わらず我が家にはテレビがなく、ラジオも父が占領しているので、ルーチェに関する情報は、澤田から聞くのが一番早かった。
「まだ発売してないけど!ユーチューブにアップされてたから!」
『泣き空』の次のシングル。
月9という、ドラマとかいうのの、主題歌になるらしい。
よくはわからない。
そもそも月9ってなんぞや。
「図書室の隅で聴こう!」
澤田がわくわくした顔で、私の手を引っ張った。