いろはにほへと
別れ際の哀愁

ミーンミンミンミン…



日本の夏は、暑い。



とはいっても、ここ数年の暑さは尋常ではない。



蝉さえも、鳴くのを忘れてしまうほどに、はたまた鳴く気力すら奪われるほどに暑いのか、元気が無い。





じっとりとした暑さと、ボストンバックは、毎年変わらない私の持ち物だ。



違うのは。




「すごい、、緊張します…」




どっくどっくと波打つ私の心臓。



毎年のごとく、私は数奇屋門を見上げる。




姫子さんの屋敷に来るのは今年でもう5度目になる。



実は今年は曲がりなりにも受験生で、この屋敷でせっせと受験勉強に励む予定だ。




私はおもむろに、がま口から古びた鍵を取り出すと、それを鍵穴に差し込んだ。





開けた先は予想通り、雑草だらけの庭が広がっていて、私はここにまた帰って来たんだなと、しみじみ思った。





いつもと違うのは。



姫子さん以外の思い出が、そこらじゅうに散らばっていることである。
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