いろはにほへと
「もしも、あの時、想いを伝えていたら?っていうことは、どういうことでしょうか?」
すっかり元の長さに戻った前髪に触れながら、考える。
―好きだ、と伝えること?
いや、ナイナイ。
即ブンブンと首を横に振った。
「ありえません。」
そんな発想は、頭に掠りもしない。
だって。
トモハルは私よりずっと大人だ。
―そして何より。
≪とにかく、頑張ってほしいですね!では、ナポリタンさんのリクエスト曲
で、ルーチェの『アスタリスク』。どーぞ!≫
有名人だ。
それに、気持ちを伝えたところで、一体何になると言うのだろう。
「不毛です。」
私は再び叩きをかけ始めた。
私が後悔してるのは、さよならをきちんと伝えられなかったことと、連絡先を聞かなかったことだ。