いろはにほへと
それでも、淡い期待と共に早まる鼓動に、自分はなんて子供なんだろうと思う。



中々休みの取れない父親が、遊園地に連れて行ってとねだる子供に、『また今度ね』という約束をする。

その曖昧な約束を、毎日いまかいまかと待ちわびる。



今の自分は、それに似ている気がする。



ルーチェの曲を、澤田に聞かせてもらう度、別れの時を思い出す。



そして、再会の瞬間、どんな顔して会えばいいのだろうと考える。



最後に、そんな可能性はないと思い直す。


けれど、望みを捨て去ることが出来ない。




宙ぶらりんになったままの気持ち。





恋は、気付かぬうちに始まった。




「…続ける為にはどうしたらいいんでしょうか。。」




トモハルとの将来は、考えたことがない。


ただ、一緒に、また、ここで、笑い合えたら。



それだけで自分は満足できるような気がした。




「そしたら、終わりになるでしょうか。」




それなら、恋とは短いものだ。



この胸のざわざわが無くなれば、自分は元の生活に戻れる。




私はそんな風に考えながら湯飲みを出し、急須から丁寧にお茶を注ぐ。




もう一度、トモハルに会えば、全て片付く。




そしたら、魔法をかけられたみたいな、今の状態から解き放たれ、随分楽になるだろう。
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