いろはにほへと
私は湯飲みを持って、縁側のちょうど庭の木陰になる部分に腰を下ろした。



ほぼ無風の日だったが、そよそよと微かな空気が抜けていくのを感じ、目を閉じる。




昨晩も、緊張し過ぎて眠れず、少し寝不足だった。



少し、だけ…。



そう考えて、うつらうつらし始めたその時、だった。




ドタタタタタタタタタタ!!!!



静かな田舎道にそぐわない、慌しい足音が、聴こえた。



驚きで、目がぱっちりと開く。





「おいこら!待てって―!!!!」


「誰が待つかばかやろぉー!!!」




続いて聞こえてきたやりとりに、お茶を横に置いて、立ち上がる。





―まさか。



逸る胸を押さえながら、玄関を注視するけれど、前髪と伸び放題の雑草が邪魔でよく、見えない。






カララララララ!ピシャン!!!!!



引き戸を開いて、閉じた音。





―まさか。




ザカザカザカ。




雑草の庭を掻き分ける音。





いつかの、ように。
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