いろはにほへと
ガササッ
「っ」
庭から頭を出したその人は。
「ひなのっ」
相変わらず元気に私の名前を呼んだ。
ラフな白のシャツ。
黒い短パン。
赤茶けた、髪の色。
間違うことのない位、トモハルだった。
「あのっ…「逃げてっ」」
「-は?」
胸がいっぱいな気持ちをなんとか押しとどめて、口を開きかけた瞬間。
「~~~~~~!!!!!」
手首をがしっと掴まれた。
「え、ちょっ」
掴まれた手首から、生身のトモハルの体温がやけに鮮明に伝わって、私の心音は最大。
「早くっ」
トモハルはおたおたする私をぐぃっと引っ張って、奥へと走り出す。
床に置きっぱなしのラジオは、いつの間にか番組が変わっているみたいだったけど、そんなの、私の耳にはもう入らない。
だって、なんで、走ってるんだろう。
しかも、全速力に近い速さで。
私は体育が苦手なのに。
その上、夢にまで見た、ルーチェの、ハルと。
もう、自分の心臓の音が、果たしてトモハルに対して高鳴っているのか、それとも、ただ単に息が上がっているからなのか、わからない位だ。
「トモハル!!!!!!!」
ちょうど、トモハルが裏口の戸に手を掛けた時、玄関の方から誰かの呼ぶ声がした。
「あの…」
「いいから。」
先に私を出させてくれたトモハルを不安げに振り返ると、彼は人差し指を立てて、片目を瞑って見せた。
・・・
・・・・・
いや。
「良くないですよね。」
全然、これっぽっちも。
私は、怪訝な顔をしてトモハルを見た。