いろはにほへと

「あー、ひなのは相変わらずしっかりしてんなぁ!今説明している時間は―」




トモハルは困ったような表情を浮かべ―



「ないから!面倒だし!ごめん、ひなの!」



「きゃぁっ」



あろうことか、私を担ぎ上げた。




「!こっちか!」



追っ手が声を聞きつけたらしく、気配が近くなる。


それに気付いたトモハルはちっと舌打ちをして走り出した。




「おろ、おろしっ…」



トモハルの肩に担がれている私は、恥ずかしいやら何やらで頭の中がぐちゃぐちゃだ。


だけど。




「ひなのっ、青柳さん家教えてっ!」





「えっ!?」



トモハルが、まるで昨日までずっと一緒に居たかと思うほどごく当たり前のように私に訊ねるから。




「そ、そこの角を曲がって…」



なんとなく私も普通に答えてしまう。



そこに、別れ際の哀愁なんてかけらも残ってなくて。




「トモハル~~~~~!!!!!!」



「しつけぇっ!!」



あるのは、追っ手の恐ろしい形相とトモハルと呼ぶ声。




抱えられている手の温もり。




密着していることへのドキドキ。





全て、普段の私の生活にはない、非日常が。




今、再び、始まった。
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