いろはにほへと
ぎょっとしたのか、トモハルは一瞬びくりと肩を震わせたが。




「えっとー…大丈夫です、通りすがりの者なので、直ぐに出て行きますから。」




片手で人差し指を立てて、なんかかるーく答えちゃってますけど。




担がれた私は身を捩って、トモハルの背中から恐る恐るご主人の様子を伺う。




「たわけ!!!」




まさに今、ゴルフバットを振り下ろそうとしているご主人。



顔を真っ赤にして、ぶるぶると怒りで肩を震わせ、額に浮かんでいる血管の筋は直ぐにでも切れそうだ。




「…ご、ご主人!早まらないでくださいっ」



「うわ、ひなの、動くなって。」



「―?ひなの???」




じたばたして叫べば、トモハルがバランスを崩した。



同時に、ゴルフバットがピタリと止まる。



が。






「きゃああぁっ」


「うお」





トモハルと私、共倒れ。



でも、私が痛くないのは。



トモハルが私を放さないでいてくれたから。





「あー…いてぇ」





いつかと同じように、トモハルは私の下敷きになっていた。



柔らかい夏の芝生の上で良かったと、少し安心する。





「ひなのちゃんかい?!」





そんな私達に降ってきた、嬉しそうな声に、私ははっと顔を上げた。





「あっ、いつもお世話になっています!今年もまたよろしくお願いします!」




私は上半身を起こすと、青柳さんのご主人に、深々とお辞儀をした。


座ったままの状態なので、若干土下座に見えなくもない。






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