いろはにほへと
廊下の木目に向けていた目を、そっと上げて、隣を歩くトモハルに向けると。
「!」
トモハルと視線がぶつかり合った。
あまりにドキリとし過ぎて、止まりそうになった足を必死に動かした。
勿論、見詰め合って居られるほどの余裕は私にはなく、直ぐに逸らしてしまう。
「…ねぇ」
ひっそりと掛けられた声に。
心音は加速するばかり。
返事はせずに、足を動かしながら、じっと続きを待つ。
一体何を言われるんだろう。
突然の別れから一年。
再会の余韻もなく、逃亡劇を繰り広げた挙句、行き着いた青柳邸で。
あの時の続きは話す事無く、今隣を歩き、お互い緊張しながら。
トモハルは、一体―
「…お茶請けに、いなごの佃煮とか、出されないよねぇ?」
「!?!?!はいぃ?!?!」
「?どうかした?」
引っ繰り返った私の声に、前を歩いていた青柳さんが不思議そうに振り返った。
「あ、いえ。なんでもないです。」
二の句を継げない私の代わりにトモハルが答えると、青柳さんはきゃぁと黄色い声を上げて、また歩き出した。