いろはにほへと
茶室に通されて、抹茶を立てて出されるのかと思ったのだが、実際は応接室のような洋間で、かっちりめのソファのある部屋に案内された。
「…ここ」
相変わらず視界の邪魔になっている前髪を斜めに避けて、呟くと、青柳さんがふふふと笑った。
「ひなのちゃん、覚えてる?姫子さんに連れられて、よく小さい頃ここに来てたわね!」
「はい。」
懐かしい空間に、少しだけ時間の流れが遅くなったような錯覚に陥った。
「ちょっと待っててね!今お菓子持ってくるから!」
青柳さんはにっこりと笑って、いそいそと部屋を出て行く。
私はと言うと、ゆっくりと部屋を眺め、そしてソファに腰掛けた。
「懐かしい?」
隣から声が掛かって、ドキっとする。
そうだった。
トモハルが居たということを失念していた。
トモハルは、私の座った横に腰を下ろして、私を見ている。
「…はい。」
素直に頷けば、そっか、と彼はふわりと笑った。