いろはにほへと
夜に下ろされた幕
「お邪魔しました」
日もとっぷり暮れた頃。
私とトモハルは、青柳邸の裏口で2人揃って頭を下げていた。
「もっと、ゆっくりしてけばいいのにぃ。そうよ、この際、もう泊まっていっちゃえば?部屋だって余ってるんだから!」
そんな私達を見て、青柳さんが露骨に残念がっている。
あれから。
私はもぬけの殻のようになっていたのだが、トモハルと青柳さんの会話が弾む弾む。
茶菓子を食いつくし、挙句に豪勢な夕飯までご馳走になって、トモハルの胃の中は一体どうなっているのだろうか。
私はと言えば、元々規定量しか食べない上に、トモハルの発言に胃が上がってきてしまうというか、なんというか、喉の奥がつっかえているような感覚に襲われ、食べ物なんて、まともに通らない。
本当は今すぐ問い質したいのに、青柳さんの手前できなくて。
「おじさんも、ひなのちゃんだけなら大歓迎なんだけどなぁ。」
ご主人も青柳さんにつねられながらも、最後までアンチトモハルで居てくれているが。
「んー、そんなに言ってくれてるなら、泊まっても…」
「色々ご迷惑になってしまうので遠慮します。本当に、ありがとございました。」
私は、トモハルに訊きたいことが、山ほどあるのだ。
隣でトモハルの動きが止まった事など構わずに、私はきっぱりと断って、再び深々とお辞儀をした。