いろはにほへと
「静かにしてください。ほら、そこにベンチがうっすら見えますよね?そこ、座ってください。」
薄ぼんやりとした視界の中で、蛍に夢中になっているトモハルに促して、その手から、自分の手を放した。
「?!」
かったのだけど。
案の定、放してもらえない。
ぐっと、力の籠もった手で、解けかけた手は元に戻される。
光っては、消え。
消えては、光る。
その繰り返しが、そこで、ここで、美しく、映る。
「ひなの。」
そして、隣で響く彼の声は、私の名前を呼んだ。
お互い顔の向きは、真横ではなく、目の前の蛍に向かっている。
だから、視線は合っていない。
「…なんですか。」
だけど、心音は上下に乱れている。
「怒ってるの?」
「怒ってます。」
「…そうだよねぇ。」
私の反応にトモハルは空いている手で頭を掻いた。