いろはにほへと
私の動きは完全に停止したが、思考も、止まる。





「あー、もしもし?俺。うん。あのね、ひなののことだけど、ご両親に挨拶に行けばいいかもしれないって。うん。もしOKしてもらえたら、の話だけどね」




おかしい。



何かが、とても、おかしい。




「そうそう、だから、土日の方が良いと思うんだけど、休み取れる?え、ひなのの家何処だっけ…、そういえば、知らない。ここらへんじゃないのかな?あれ、違うんだっけ。」




着実に話を進めながら、トモハルがチラリと私を見たので。





「・・・・・」




無言で睨みつけるも。




トモハルは、にっこりと微笑んで。




「うん、うん、そう。よろしくー」




通話を終えると、言った。





「これで、家に帰れるよ。逃げなくて、良くなった。あ、前髪また切ったげよっか?」





とても、良い事をしたように笑う、トモハル。





「この…」




反対に、とても、大きな代償を払ったような、私。





「大馬鹿男ーーーー!!!!!!!!」






人生で初めて、人に罵声というものを浴びせました。







「え、ちょ、何?ひなの?!」








強制的に始まった逃亡劇は。




始まった時と同様。






強制的に幕を下ろされた。




環境がめまぐるしく変わり過ぎて。





結局トモハルが何を一番の目的にしてきたのか。




ただの気紛れだったのか。


仕事の為だったのか。


本当に顔を見に来てくれたのか。



知りたいことが、何一つ、わからないままで。
< 168 / 647 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop