いろはにほへと
「さ、もういいでしょ。行きますよ。」
蛇を見送って、立ち上がった私は軽く手の土を払い、トモハルを振り返った。
確認する術はないけれど、そろそろ良い時間になっていると思う。
「ひなの。。すごいよ。ほんと、すごいよ。」
トモハルは駆け寄ってくると、尊敬の眼差しで私を見つめた。
―この人、10個も年上なんですよね…
私も複雑な思いで、トモハルを見返す。
「え、何、その冷めた目…ひなの、今何思ったの!?」
「…いえ、別に何も…」
直ぐにフイ、と視線を逸らし、私は姫子さんの家に急ぐ。
「嘘だっ、絶対良くないこと思った!」
普段は静かな田舎道なのに。
今夜はどうも騒がしいと、近所の方々は首を傾げているに違いない。
「ひなのは、命の恩人だよ」
隣に並んで歩く格好になると、急にトモハルが呟いた。
「あんな小さな蛇相手に、命がとられるとか本気で思ってるんですか?」
心底驚いて返すと、トモハルが傷付いた顔をした。