いろはにほへと
「現実から逃げた俺が、また現実に戻れたのは、ひなののお陰なんだ。」



だから、とトモハルが続ける。



「俺にとって、ひなのはやっぱり、命の恩人なんだ。」




トモハルが言う言葉の中に。



きっと、偽りはない。



私が今まで生きてきた中で味わった苦しみや痛みは、トモハルとはきっと違う。



一見、煌びやかで、華やかに見えるテレビの中の人たちは。



テレビの中と外で、境界線を引かれていて。



外の人達から憧れや羨望の眼差しを受ける世界に居るんだけれど。



そこは、私達が『現実』とは呼ばない世界で。



けれど、トモハル達にとったら、それが『現実』で。




その、境界線を飛び越えて、出逢ってしまった自分たちは。


一体、どちらが、『現実』になるんだろう。





私の脳内が、難しく凝り固まってきた所で。



隣から、鼻唄が聞こえてくる。


私はそんな隣人をちらりと盗み見る。



この距離は、果たして現実なのか、夢なのか。



どう扱えば良いのか、完全にもてあましてしまって、わからない。
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