いろはにほへと
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姫子さんの家に着いたのは、9時を過ぎた所位だろう。
周りを囲う長い塀が見えてきた時には、懐かしささえ覚えた。
だが。
「あれ…」
意気揚々と数奇屋門の前まで来て、私は立ち止まった。
門の傍に、何かが、しゃがみこんでいる。
「ん?」
それに気付いたトモハルも、首を傾げる。
「え?あ!!!やっと帰って来た!」
トモハルの声に勢いよく、がばっと顔を上げたそれは。
「まこちゃん。」
いつか一度だけ会ったことのある、スーツ姿の男だった。
確か、ルーチェのマネージャー、早川さん、だ。
「いやぁー、よく説得してくれたよ!!うんうん!良かった良かった!承諾してくれてありがとう!!!これで俺の首も繋がった!うん!」
終始ご機嫌な様子の彼は、にこにことトモハルの肩を叩き、私の腕を取ってぶんぶんと振り出した。