いろはにほへと
「ひっ、人でなし…」
瞬間に、わかりやすく強張った表情で、早川さんが呟く。
「ひっ、ひなのっ…」
トモハルもひえぇと口に手を当てる。
「・・・」
なんなの、この大人二人。
いささか、眠気も催してきた私。
面倒臭さもあった。
テレビ、というものを、よく知らないということもあった。
PVって何かもよくわからないし、撮影っていうのがどんななのかもわからない。
ただ。
トモハルの歌が好きだった。
「…わかりました」
小さく息を吐いて、私は床を見た。
「へっ!?」
「えっ!?」
仲良く目の前の二人が近寄ってきて、私の方へ耳を傾ける。
「いいいいいいい今!!!今何て言った!?」
「ももももう一度!もう一度言ってください!!」
私が断らなくても、両親が、いや父が首を縦に振ることはないのではないか、という期待も手伝って、私は小さく頷く。
「わかりました。って言いました。」
「っっ!!!!」
声なき悲鳴。
そして続く割れんばかりの歓声を聞きながら。
トモハルの作る新しい歌は、どんなだろうという期待のようなものが、小さく私の胸を躍らせていた。
つまり、それくらいぼんやりとした意識しか持ち合わせていなかった。
だって、ずっとノンストップで。
常に隣に待ちわびていたトモハルがいるものだから。
漸く辿り着いた姫子さんの家の懐かしさに、緊張が一気に解けてどっと疲れが出てしまったのだ。