いろはにほへと
恋歌
夏休みが終わるまでに、という私の条件は大人の世界では、かなり厳しいものだったようで。
特に、このPVの撮影とかなんだとかになると、もっともっと大変になるらしく。
一ヶ月ちょっとの期限は、ぎりぎりセーフか、アウトか、という所だそうだ。だから、早く行動しないと、間に合わない。
そんなわけで。
PVの話を受けた翌日。
朝6時。
「まぁ…彼女のカットだけ全部撮れれば良い訳なんだけど…何せPVの主人公になる訳だからね…しかも初めてって言う…」
前日に渡された連絡用の携帯がけたたましく鳴り、家の前に出てくるよう指示された。
数分後、半ば拉致に近い仕方でハイエースの後部座席押し込まれた私を、助手席に座った早川が悩ましげに振り返る。
この強行に母はぎょっとして文句のひとつやふたつ言いかけたようだったが、5時から起きている父がそれを止め、男に二言は無いという様子で、にこやかにいってらっしゃいと私に告げた。
勿論、私も起床は5時だったので、起こされた感はなかったが。
「………あの、、これから、、、どこへ…」
己の行く末が、想像できず。
もっと言うなら、早過ぎる展開についていけない。
撮影なんちゃらは、もっとずっと後のことかと思っていた。
理由は先程の大人の事情って奴に繋がるようだけれども。