いろはにほへと
「んん、早川君じゃないか。おはよう。」
振り返ってこちらに手を上げた男性に、私はぎょっとした。
何故なら、頭と髭の境がわからない位もじゃもじゃしていて、恰幅も良い上に室内でもサングラスを掛けていたから。
もじゃもじゃ男、もとい、羽柴監督は、吸い掛けの煙草を、灰皿に押し付けると、ゆっくりとソファから立ち上がった。
「昨晩はどうも、急にお訪ねして申し訳ありませんでした。」
「いやいや、大事な話だ。いいんだよ。気にするな。ところで―」
のっしのっしと歩いて、直ぐに目の前に立つと、頭を下げる早川さんの肩をばんばんと叩いた。
絶対に痛いだろうなぁと私は心配になったけれど。
「例のその―、そちらがスカウトした子、何処に居るの?」
きょろきょろと辺りを見回した羽柴監督から発せられた質問に、一気にそんな余裕が吹っ飛んだ。