いろはにほへと
「あ、えっとぉ、、ここに。」
早川さんが、確実に私の方へ掌を向ける。
「え?何処?」
わざとかって訊きたくなるくらい、私が目に映っていない様子の羽柴監督。
「だから、ここに…」
早川さんも負けじと、私へ向けた掌にぴっと力を籠める。
「え?ちょっと、早川君、ふざけてるの?何処にも見えないんだけど。その、那遥君のお眼鏡に叶った子って―」
羽柴監督は本当に苛々し出したらしく、落ち着かなさげに靴をトントンと鳴らす。
そこに。
「ですから!」
フロア全体に響く程の早川さんの大きな声に、私も監督もびくりと肩を震わせる。
見れば、早川さん。引き攣った笑顔で、私を掌で指したまま。
「この子!です!」
強く言い切った。
やけくそに、聞こえなくも無かった。