いろはにほへと


「あ、えっとぉ、、ここに。」





早川さんが、確実に私の方へ掌を向ける。





「え?何処?」



わざとかって訊きたくなるくらい、私が目に映っていない様子の羽柴監督。



「だから、ここに…」



早川さんも負けじと、私へ向けた掌にぴっと力を籠める。




「え?ちょっと、早川君、ふざけてるの?何処にも見えないんだけど。その、那遥君のお眼鏡に叶った子って―」



羽柴監督は本当に苛々し出したらしく、落ち着かなさげに靴をトントンと鳴らす。



そこに。



「ですから!」



フロア全体に響く程の早川さんの大きな声に、私も監督もびくりと肩を震わせる。



見れば、早川さん。引き攣った笑顔で、私を掌で指したまま。




「この子!です!」





強く言い切った。



やけくそに、聞こえなくも無かった。
< 198 / 647 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop