いろはにほへと


「とにかく!ここには立ち入り禁止!散れ散れ!時間がないんだ。」




「えーーー!!!まこちゃんのケチぃ!」




早川さんが入ってこようとするメンバーの前に立ちはだかって、通せんぼをし、キィ君がぶーたれる。



「そんなに見たいんだったら、撮影が始まってからスタジオの隅ででも見てろ!ただでさえモデルの気が散るだろ!」



「ひど!俺等の曲なのに!」



「まぁまぁ。確かに突然過ぎたし!行こ行こ!」



本気ではないが、憤慨するキィ君の肩を、ソージが掴んで廊下に戻らせた。



「見てみろよ、政宗なんかもうあんな遠くに居るぞー」



ソージの声が響き、初めてまぁさんが忽然と姿を消していた事に気付いた。




「―で?なんでお前は残ってるワケ?」



早川さんの冷ややかな声が、静かになった室内に通る。




「え?俺は居ないと駄目でしょ?ひなのは俺が居ないときっと緊張するし、曲の説明もちゃんとしてなかったし…」




ちゃっかり残っていたトモハルが、当然でしょうと言った。




「大丈夫だ、トモハル。俺がちゃんと説明するから。」



「ええ?!」




がしっとトモハルの肩を掴むと、早川さんが、ドアの向こうに押し出す。


そうして、何やら静かに耳打ちした。




「お前とあの子が間違っても撮られてみろ。最悪だ。接触は極力避けろ。」




私は聞こえない二人のやりとりを、ただ首を傾げて見つめていた。
< 206 / 647 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop