いろはにほへと
心なしかざわついているスタジオで、早川さんは口早に挨拶。


「えーと、こちらが中条ひなのさんです。何しろ初めてなので至らない部分沢山あるかと思いますが、よろしくお願いします!」



えっ、という声がしたかと思えば。




「何、早川君、さっきの子じゃないじゃん。代えたの?どこのモデル?」




羽柴監督がすぐ傍まで来ていて、驚いた。




「あ、監督、先程はどうもです。代えてませんよ?いかがですか?すごく化けたでしょう。」




「代えてない?」



自信満々に答える早川さんに、きょと、と監督は一瞬停止し、




「っ!!!」



勢いをつけて、私を見つめた。




―ひっ



肩もがしりと掴まれたので、思わず悲鳴をあげそうになったのを必死で堪えた。


目がよく見えるせいで、監督の視線が強く突き刺さる。





「これは…サファイアどころじゃないな…」




絶えられない私の目の泳ぐこと泳ぐこと。




そこへ。




「はーい、主演の阿立桂馬(あだちけいま)さんも入りまーす。」




誰かの声がして、ひとりの線の細い男の子が、奥からやってきたのが見えた。


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