いろはにほへと



『メイ!』





名前を呼ばれたメイは、顔を上げてヒロを出迎える。






『まだ残ってたの?』






教室の入り口から、柔らかい笑顔を湛え、近づくこの人は一体。




誰!?




さっきの人と、別人。





「カット!中条、固まるな!」





監督からの、呆れたような声が聞こえる。




「はっ!す、すいませんっ!!!」




泣きたいが、泣けずに、必死で謝るしかない私。




「もう一回!」



「チッ…」



「ひっ」




天使の様な笑顔から、悪魔の様な舌打ち。


心底だるそうに元の位置に戻っていく。




完全に足手まといな自分。



スタジオ全体の雰囲気も段々険悪なものになってきていた。



ただでさえ、最初から良くは無かったのに。




―や、やめたい。。家に帰りたい…



しかし、そんなことにも気付く余裕すらない、私。




とにかく、相方が怖すぎる。


あと、カメラが意識されて仕方ない。


自分にガンガン集まる視線の数も、多過ぎる。
< 217 / 647 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop