いろはにほへと
『メイ!』
名前を呼ばれたメイは、顔を上げてヒロを出迎える。
『まだ残ってたの?』
教室の入り口から、柔らかい笑顔を湛え、近づくこの人は一体。
誰!?
さっきの人と、別人。
「カット!中条、固まるな!」
監督からの、呆れたような声が聞こえる。
「はっ!す、すいませんっ!!!」
泣きたいが、泣けずに、必死で謝るしかない私。
「もう一回!」
「チッ…」
「ひっ」
天使の様な笑顔から、悪魔の様な舌打ち。
心底だるそうに元の位置に戻っていく。
完全に足手まといな自分。
スタジオ全体の雰囲気も段々険悪なものになってきていた。
ただでさえ、最初から良くは無かったのに。
―や、やめたい。。家に帰りたい…
しかし、そんなことにも気付く余裕すらない、私。
とにかく、相方が怖すぎる。
あと、カメラが意識されて仕方ない。
自分にガンガン集まる視線の数も、多過ぎる。