いろはにほへと
「ひなの、です。」
「えー???」
「だから、ひなのって…」
聞こえにくそうなトモハルを見る事無く、繰り返すと。
「ひなの!かぁ!」
「!!」
すぐ傍で大声で呼ばれたので、びくっと身体が震えた。
「あはは!ごめん、驚かせちゃった?」
見ると脚立の直ぐ傍まで、トモハルが来ていた。
「中々聞こえなかったからさー。また脚立から落ちちゃうところだったね。」
ドク、どころじゃない。
こんなに至近距離に寄られたら、可哀想な心臓がバクバクと音を立てて仕方ない。
というか、脚立に乗っている私から見ても、トモハルの背が結構高いことに驚いた。
いや。
み、見ない見ない。
気にしないで藤の手入れを続けようとする。
「ねぇ、ひなの。」
「・・・・・・・」
「ねぇってば。ひ・な・の!!」
「…名前教えたら、静かにしてくれるって言いませんでした?」
「言ったけどそれはさっきで今じゃない。」
どうしよう。
理解できない。
「それ、何の樹?」
眩暈を感じている私なんてお構いなしに、トモハルは藤の樹を指差した。