いろはにほへと
えっと、窓の外…。



ふらり、と視線を持ち上げて見つめた先―。




―あ。



自分がどこにいて、何をしているのかという感覚が、一切なくなった。



なぜって。



スタッフ達の後ろで、壁に寄りかかって腕組みをしているトモハルを見つけてしまったから。


その表情は、いつもの彼とは不釣合いな程、複雑で真剣な顔をしていて、私の不安を煽るには十分だった。


同時に、胸を締め付ける。



トモハルと自分との間、スタッフは沢山居る筈だけれど。


その全てが遮断されて、この空間には今トモハルと私だけしか居ないのかと錯覚する程、見入ってしまっていた。




しかし。



「はい、カットー!!!」



直ぐに監督の声で我に返った。



「中条ー!!今ので良かったのは最後の部分だけ。後はやり直し!だけど最後は本当に良かった!」




ご満悦な監督とは反対に、私はやり直しの言葉にうんざりした。





「…あんた、一丁前にああいう顔できるんだね。演技素人の癖に。」




ふと、傍からかけられた言葉に顔を向けると、桂馬が私の視線を辿っていた。




「…な訳ないか。あんたもしかして、ルーチェのハルのことが好きなの?」



「!」



「図星?」



「いいい…いやいやいや、、、」




首を振って否定してみるが、真っ赤になった顔が肯定しているようなものだ。




「…へぇ。マジみたいだね。ファンとしてとかじゃなさそう。」



「いいやいや、ホントに違いますから…」




よりによって、こんな危険そうな男子にバレたら、明日の命は無いだろう。





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