いろはにほへと
「っていう訳だから、この一週間、撮影以外の時間も、俺と一緒に行動ね。行きと帰りも一緒。早速帰ろうか?」


放心状態に陥っている私なんて構わずに、桂馬は淡々とした口調で手を差し出した。



「は…、あの…」



この差し出された手の意味は、何なんでしょうか。


訳が分からず固まっていると。



「監督…そこまでしなくても良くないですか。彼女の出番は少ない筈ですし、メインは彼ですよね?カメラワーク次第ではなんとでもなるでしょう。」



聞いたことがないと言う位、トモハルの冷めた声。

でも、それに縋りつきたい、今の私。


咄嗟に桂馬の掌から視線を声の主に向けた。




「―我が儘過ぎやしませんか?」




羽柴監督は確かに口を開きかけたけれども。


トモハルと同じくらい、いやそれ以上に厳しい口調で響く言葉は、桂馬からのものだった。




「何?」




トモハルは監督へ向けていた視線を、横にずらして、私を通過し、彼に定めると、きつく細める。




「それか、俺等の仕事を馬鹿にし過ぎている。」





桂馬はといえば、差し出していた手を仕舞い、腕組みをしながら不敵に微笑んでいた。


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