いろはにほへと
「俺等は今回の件では、かなりあなたに振り回された。幾らハルさんみたいな売れっ子だからといって、正直ここまで口出しされるなんて思って居なかったです。それが通るということだって予想していなかった。でも実際全てが引っ繰り返って、一から始めることになりました。スケジュールはパンパンです。もう時間はない。まして彼女は素人過ぎる。四の五の言っている暇はない筈ですが?」




羽柴監督も苦渋の表情をしているが、桂馬の言うことには一理ある、いやもっとあるのかもしれない。




「その上、カメラワークでなんとかごまかせるとでも?馬鹿にするのも大概にして下さい。俺等は演技に命かけてるんです。あなたもご自身の歌を同じように扱われたらわかるんじゃないですか?」




マシンガンのように繰出されてはいるが、桂馬の口調は感情は感じられず、淡々としていた。




「それとも―」




「桂馬。そのへんにしとけ。そこまでお前に言う権利もない。」




羽柴監督の制止。





「!うわ…」




急に私の腕をぐっと掴んで歩き出した桂馬は、トモハルの脇を通りぬけると同時に。




「そんなに彼女が心配ですか?」




何か低く呟き。




「お、お、桂馬?!」




躊躇える羽柴監督の声を無視して、スタジオを後にした。

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