いろはにほへと

「藤、の樹です。」




左腕のすぐ下辺りに赤茶けた頭がある事が、落ち着かない気分にさせるが、視界に入れないようにすることで気を逸らす。




「藤か…、それで、今は何してるの?」




「夏の手入れをしています。」




そっけなく答えているのに、トモハルは全く気にならない様子で興味津々に訊ねてくる。




「どうやってやるの?」




「…伸びが強いツルの先を摘み取って、これ以上伸びないようにしているんです。あとは、ごちゃごちゃになっている所を少し整理してあげて、陽が当たるようにしてあげています。」




説明した通りに、私がツルの先を摘み取ると、トモハルも同じように手を伸ばして下の方のツルの先を摘んだ。





「花は咲くけど―直ぐに散っちゃうから、哀しいよね。」





「…どうしてですか?」




手の内にある先端をじっと見つめ、トモハルが残念そうに言うから、訊かれてばかりだったのが、気付けば問い返していた。





「一瞬で、終わっちゃうでしょ。次にいつ咲くかもわからない。だけど咲くもんだと勘違いしてる人もいて。それで咲かないまま終わっちゃえば、もう見向きもされなくなる。」






私は藤を触る手を止めて、首を傾げた。

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