いろはにほへと
「とりあえず、これで、ぬぐえ!」



どこから持ってきたのか、おしぼりを桂馬が差し出すので、目を開いた私は勧められるがまま、自分の顔を拭く。


「ほら、あとは化粧水でも付けてろ!」



さっきと違って、今度はぴたぴたとコットンに含まれたお肌しっとり成分が行き渡る。若干こすられてる感があるが、そこは文句言えない。




「おし、ちっとはマシになったな。いやダサさはどうしようもないけど。」



ふ、っと満足げに息を吐いた桂馬。



「けど…俺の隣を歩くのに、そのダサさはない。」



直ぐに思案顔になる。




「Tシャツだけでも、これに替えて。」



そう言って、自分の鞄からフレンチブルの絵がプリントされたTシャツを差し出した。





「いや、間に合ってます。」



「着ろ。」



「・・・」




強い口調で命令した桂馬は、座る私の膝にシャツを落とし、部屋を出て行く。




私は、そのTシャツのブルを、精一杯睨みつけた。
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