いろはにほへと
「花が咲くと信じて待っててくれる人が居るから、花は応えるんですよ。」





脚立の上に座る私がトモハルを見ると、彼は眩しそうに私を見上げた。





「―え?」





枝の間に光が通るよう手入れをしたので、益々日光がきつく感じられる為だ。






「この藤は、もう時期は過ぎてしまいましたけど、こうして手入れをしてやれば、一ヶ月後、私が帰る頃に花を咲かせてくれます。狂い咲き、ですけど。」






言いながら、私は再び藤に視線を戻す。




「そうやって狂い咲くと、来年のシーズンになって、とびっきりきれいな花を咲かすんだそうです。」




姫子さんが大事にしていた藤の樹を愛でるように撫でた。






「花は散っても、また、咲くんです。」





ふ、と口元が綻んだ所で、ひゅうと生温い風が通り抜ける。





「-あ。」






トモハルが声を上げたので、え、と彼を見ると。







「ひなのの目が、見えた」





「!!!!」





ガタタッ




「おわっ!!?」





動揺し過ぎて、本日二度目の落下。




お父さん、姫子さんの家は相変わらず静かですが、今年は変な客人をお迎えすることとなりました。



突然の来客は、幸と不幸の、どちらを持ってくるのでしょうか。




初めて合った、悪戯っぽく笑う琥珀の瞳が、何故か頭に焼き付いて中々離れてくれません。
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