いろはにほへと
冷房が効いている室内は、寒いくらいだが、その中でサングラスをしている桂馬は少し浮く。



「うーん…どうするか…」



私はとりあえず近くのテーブルの上に本を置くと、思案顔の桂馬を見つめた。


今読んだらどうかはわからないけれど、当時全く興味がなかった為、思い入れもない。なんとなく有名どころだから読んでみただけなのだ。








「さっきの…お兄さんだったんですか…?」



ふと、先程まで運転手をしてくれていた彼と面影が重なり、桂馬の事を「弟」と呼んでいた記憶が甦る。



「・・・・」


「あのー…」




返事をせず、拳を口元に当てて考え込む桂馬に無謀にも催促してみるが。




「・・・・」



結果は変わらなかった。




「あんたと気持ちはかわらないんだと思うんだけどな…」



ぶつぶつと呟いている桂馬の表情は真剣そのもので、私は黙って待つことにした。



「―よし、じゃ、まぁ、座れ。」



「?はい」



何やら一生懸命考えてくれたらしく、促されたとおりに私は椅子に座った。


桂馬も同じようにして、向かい合う形になる。
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