いろはにほへと

「―じゃ、わかった。」



また少しの間が空いて、とうとう桂馬の中で結論が出たようだ。


私は無意識に姿勢を正した。



桂馬は考え込むように右掌で口元を覆いながら、テーブルに向けていた目を、私に向ける。




「この一週間、俺は本気であんたを落とす努力をする。」


「―は?」




目がテン、とはこのことだ。

桂馬の発した言葉の意味を理解できない私は、大いに狼狽える。



「お、お、落とすって…どういうことですか?まさ、まさか、崖から、、とか…じゃないですよね…?」



「お前馬鹿?」



―冷たい。

この人、冷たすぎるよ。

コミュニケーション能力も願望もない私が、この人を理解できる訳がないのに。



私は、歪む唇をなんとかぐっと噛み締めて、脳のどっかで「Help Me!」と叫んだ。



「なり切るって事。ヒロはメイの事を好きなんだけど、それを自覚できないでいる。いや、恐くてできないんだ。認めたら、壊れてしまいそうな関係だから。だけど、メイは他の誰かのことを好きで仕方ないんだ。それもまた、報われることがない恋だろ?」



馬鹿、と罵ったわりには、細かく説明してくれる隠れ親切な桂馬。
< 248 / 647 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop