いろはにほへと
「―じゃ、わかった。」
また少しの間が空いて、とうとう桂馬の中で結論が出たようだ。
私は無意識に姿勢を正した。
桂馬は考え込むように右掌で口元を覆いながら、テーブルに向けていた目を、私に向ける。
「この一週間、俺は本気であんたを落とす努力をする。」
「―は?」
目がテン、とはこのことだ。
桂馬の発した言葉の意味を理解できない私は、大いに狼狽える。
「お、お、落とすって…どういうことですか?まさ、まさか、崖から、、とか…じゃないですよね…?」
「お前馬鹿?」
―冷たい。
この人、冷たすぎるよ。
コミュニケーション能力も願望もない私が、この人を理解できる訳がないのに。
私は、歪む唇をなんとかぐっと噛み締めて、脳のどっかで「Help Me!」と叫んだ。
「なり切るって事。ヒロはメイの事を好きなんだけど、それを自覚できないでいる。いや、恐くてできないんだ。認めたら、壊れてしまいそうな関係だから。だけど、メイは他の誰かのことを好きで仕方ないんだ。それもまた、報われることがない恋だろ?」
馬鹿、と罵ったわりには、細かく説明してくれる隠れ親切な桂馬。