いろはにほへと
そんな。
私は一言も、トモハルが好きだなんて、桂馬に言っていないのに。
むしろ否定しているのに。
どうして、こんなことになってしまっているのでしょうか。
それに。
「―あの…けい…いや、阿立さん…」
桂馬が不機嫌そうにジロリと私を見て、「桂馬でいい」と呟く。
「あ…じゃ、桂馬くん…は、恋愛の、スペシャリストなんですか?」
「はぁ?」
頬杖を付いていた彼のそれがずれて、ずるりと姿勢を崩す。
「何を言い出すのかと思えば…何、スペシャリストって。ダサい。」
なっ。ダサいってまた言われた。
軽いショックを覚えながらも、めげずに。
「そのっ、恋ってものをよくご存知なんですか!?」
それなりに勇気を振り絞って訊いた。
「…少なくともあんたより経験はあるよね。あんたがなさ過ぎなんだけど。」
桂馬がかなりの呆れ声で言い、鼻で笑う。
「じゃ、じゃあ、じゃあ!」
私が興奮気味に身を乗り出して立ち上がったので、桂馬が少し仰け反った。