いろはにほへと
「言ったでしょ?恋愛の忘れ方は、荒療治になるって。」
目を逸らす前と、同じ姿勢で、桂馬はただじっとこちらを見ている。
「無傷じゃ済まない。だけどそうやって忘れることが出来る。第三者の介入で、記憶や想いが薄れることはある。」
要は。
他の人のことで、頭をいっぱいにして。
トモハルのことを、考えないようにして。
少しずつ、自分から切り離すということか。
「あんたは、他を知らないんだろ。辛い恋なら忘れればいい。あんな年上相手にするなんて、あんたにはハードルが高過ぎるよ。」
桂馬がそう言ったと同時に、ガチャと、ドアが開く音がして、運転手と喜一ちゃんが、乗り込んで来た。
だから、強制的に、話はそこで終わりになった。