いろはにほへと
それからの撮影期間。
桂馬とはほぼずっと一緒に時間を過ごした。
行きと帰り。
朝と晩。
待ち時間。
トモハルとは、結局あの日の朝以降、会うことはなく、私から早川さんに訊ねることもしなかった。
それは、桂馬の言ったような、『距離を開ける、考えない』を、自分が意識し始めた事に寄って出た行動だった。
桂馬といると、気が楽だった。
意地悪で、上から目線だけど、同い年に変わりはなく。
抱える問題、置かれている学生という状況、授業の話。
トモハルとは違って、通ずる部分がとても多く。
胸が締め付けられるような痛みも、無くて。
自分のペースを取り戻しつつあるのを、実感出来た。
トモハルさえ、目の前に来なければ。
私の初恋は、簡単に、幕を下ろしてくれそうだった。