いろはにほへと
ーつ、付き合ってあげる?
おろした長い髪の束を、両手で掴み、表情を隠しながら、桂馬の言った意味を考える。
例えば、買い物に行くのに付き合ってあげる、というニュアンスなのか、だとしたらこれからも協力してくれる、ということだと認識するべきなのか。
つまり、こないだの、その、図書館とかでの出来事とか、出来事とか、出来事とか…
いやいや、そんなことされたら、心臓が持たない。
「あ、あの、遠慮しておきます。」
景色から、そろそろスタジオに着く頃だと判断した私はこっそり、桂馬に耳打ちする。
桂馬は、ジロリと横目で私を一瞥。
「もう、今日で桂馬くんとは二度と会う事もないと思いますし、私は私でなんとかしますから、そんな、桂馬くんを煩わせるようなこと頼めません。」
ぺこっと頭だけでお辞儀。
「はーい、お疲れ様ー!着いたよ!」
運転手の声で、頭を上げると、桂馬と目が合った。
桂馬は何か言い掛けたようだったが、直ぐにフイと目を逸らす。
「本当に一週間ありがとうございました。」
私はもう一度、小さく頭を下げた。