いろはにほへと
次の瞬間、私の前には、桂馬が居た。



「けっ」



驚いて名前を呼ぼうとした途端。


引っ張られた腕が更に持ち上げられて、ぶつかる、と思って目を瞑った。



ふわりと触れる、蝶々みたいな擦りが、唇を過る。



ー!!!!


頭の中が真っ白になって、目を開くと、あろうことか、桂馬は不敵に笑っていた。




「な…に…」



動揺している最中、引き寄せられ、視界が真っ暗になった中で、桂馬が囁く。



「知ってた?今の恋を忘れる為には、新しい恋をするのが手っ取り早いってこと。さっきの、言い直す。付き合ってあげる、じゃなくて、俺と付き合おう?」



ーへ?



目の前真っ暗、頭は真っ白。


これ以上は、ショートするしかなさそうです。




「何やってんだ!!」




喜一ちゃんの怒号が響き、桂馬はやっと身体を放す。




「考えといて、ね。」



それでも、滑り込ませるように私にそう言って、片目を瞑り、完全に解放してくれる。



「桂馬ぁ!」


「喜一ちゃん、なぁーに怒ってんの。次のドラマのシーンの練習だから。気にしない気にしなーい」


「ふざけるなぁ!!」





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