いろはにほへと
桂馬と喜一ちゃんの言い合いは、2人がエレベーターホールに着くまで続いて、その後は完全に聞こえなくなってしまったから、わからない。



ただ、私は、背にトモハル、空の桂馬号を前に、身体が全く動かない。

いや、動けない。


免疫がない。


なさ過ぎて、闘う気力も残っていない。


そもそも、闘い方を知らない。


何に対して闘うのかもわからない。




ただ。


ツカツカツカと、自分に近づく足音は、聞こえたような気がする。




「!」



次に迎えた衝撃は、腕を強く掴まれた痛みで。


慌てて見上げたトモハルとは、視線が合わない。




そのまま、車にあっという間に連れて行かれる。



掴まれた片手とは別の手で後部座席を開けた所で、トモハルはやっと私を振り返った。



「乗って。」



短くそう言われ、正直な所、何が何だかわからないけど、コクコク頷いて、中に入る。

どうしてだかは知らないが、早川さんはどこにも居らず、車内は私とトモハルの二人きりだった。


が、そんなことに思い当たる暇もなく。


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