いろはにほへと

「きゃ…」



背中に押されたような感触。


勿論、シートの上に、転倒。


真横につんのめってしまった感じ。




「ごめんなさ…」



慌てて起き上がろうとしたのに。


仰向けになった所で、顔を挟み込むように、長い腕が置かれる。



「ど…した…」



今更気付く。

トモハルの服装が、いつもと違う。

ラフな格好が多いトモハルなのに。

今日は、スーツを着ていて、知らない人みたいだ。



「アイツに」



じゃ、なくて。


違うのは、服装なんかじゃ、ない。



「キス、された?」



纏っている雰囲気。


空気が、違う。


知りあってから、今まで。


こんな彼を、見たことがない。



「好きなの?」



答えられないまま、トモハルの質問だけが、車内に静かに響く。


トモハルの目が、真っ暗で、怖い。




無言で、なんとか首を振るけれど。




「じゃ、どうして-」



伸ばされた長い、人差し指。


その指の腹が、つい、と唇の中央に触れて、離れて、また置かれる。




「許したの。」



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