いろはにほへと
「そうですか。一年経っているから、埃も大分積もっていると思います。掃除だけでも、一緒に行きましょうか。」
空は快晴で、太陽からの熱が、じりじりと肌を焼いていくようだった。
「いえ、大丈夫です。もう、四回目ですから、慣れました。」
「そうですか…。わかりました。戸締りに気をつけてくださいね。」
姫子さん、つまり私の祖母の家に行くようになったのは、中学二年生の夏からだ。
姫子さんは、田舎の大きな土地と大きな屋敷に一人だけでひっそりと住んでいて、穏やかな生活を送っていた。私も母に連れられて、何度も遊びに行き、かわいがってもらったことを覚えている。
けれど、私が中学校に上がる前に、突然亡くなった。
土地と屋敷は遺されても金食い虫だけれど、古くからの建造物はそれなりに価値のあるものらしく、叔父が相続することにしたと母から聞いた。
そのお陰で、私は毎年夏休みの間、その屋敷を借りることが出来ているのだが、初めて行った時は、当たり前だけど、かつて姫子さんが住んでいた家とは思えないほど汚くて、掃除するのに一週間以上費やした。
叔父が多忙なせいで、メンテナンスらしいメンテナンスをほとんどしていなかったのだ。
それでも、一人の時間を、姫子さんとの思い出に浸りながら過ごせる場所はとても心地良く、結局毎年入り浸ってしまっている次第だ。