いろはにほへと


本当は。


そんなの、口実で。


ただ、会えるっていう、それだけのことが。


曲に込めた約束が叶うって言うそのことが。



自分の頭を目一杯占めていた。





世間は夏休みだから。

ひなのはきっと、あの屋敷に来てるだろうって。


なんとなく、勝手にそう思ってて。



自分の仕事も問題も、何一つ解決していないけど、全部後にして、会えるんだって、思ったら。


自然と、足は速くなって、軽い息切れまで起こしていた。



もう、ガキじゃねぇんだって。

自分は、大人なんだって。


あの子を想うのは、間違ってるんだって。


考えなくちゃいけない立場も、相手のことを思いやる気持ちも、それなりに持っている。


なのに、それとは裏腹に。



嬉しくて仕方なかった。



あんなさよならの仕方をして。



きっと、ひなのは怒っているだろうけれど。
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