いろはにほへと
ひなの自身も、そういうのには疎かったから。
だけど、プロにメイクされ、別人のように変化したひなのはー光り過ぎて。
カメラがそれを追うだけで、妬いてしまう自分に呆れ返った。
曲に対する自分の想いと、個人としての想いとの葛藤。
イメージにぴったりだと思う自分と、ひなのを世間に晒すことへの拒否反応。
見ているだけで、ぶつかり合う感情の波に、疲れ果てた。
徐々に距離を縮める、二人を見るのにも、堪え兼ねた。
同じ目線。
同じ年。
同じ話題。
一昔前の、芸能界とは違う。
今や、芸能人の恋愛も大分許容されている。
もしも、ひなのがその気になれば、あり得ないことではない。
だからと言って、俺に何かできることはなく。
距離を置いた癖に、我慢出来ず、メンバーに無理言って早朝に会いに行った時、確かめるようにひなのを抱き寄せた。
あれでも抑えてたけど。
もう、完璧、俺はおかしかった。
だけど、それ以上に、ひなのの態度が、なんとなく解せない部分があって。
桂馬の姿を確認した瞬間、真っ赤に染まったその頬と、桂馬の不敵な笑い。
どうしようもない焦燥感。
どうしようもない敗北感。
その二つが、ザワザワと、攻めてくる。