いろはにほへと
「情けねぇ。」
俺は、雑踏の中から外れて、誰も居ない夜の公園のベンチに腰掛けた。
目指したつもりはない。
気づいたら、ここに居た。
背もたれのない木製のベンチは、昼間の太陽の熱を宿していて、付いた掌が温かい。
それが、ひなのの、体温を思い出させる。
「俺のが、大人なのに。」
孝佑は、特に俺の気持ちに気付いていて、気を利かしてか、ひなのをひとりで迎えに行くように、勧めてくれた。
まこちゃんが、俺達を迎えに来て、俺だけ後に残ったのはそのせいだった。
大丈夫だと思っていた。
だけど。
まさか。
28にもなって。
嫉妬に自分を見失うとか。
苦々しい思いで、星一つ見えない都会の夜空を見上げる。
真っ暗な背景のせいで、いやにはっきりと、ひなのと桂馬のあの瞬間が浮かび上がる。
「胸糞悪ぃ」
思い出すだけで、苛立ちが募る。