いろはにほへと
ー駄目元でも、もう一度謝ろう。



「澤田さー」


そう思って口を開いた矢先。



「ほら、行くよ。それ、持って帰って家で食べなよ。」



鞄を持った澤田が、口を付けていないトレイの上の物を顎で指した。




「え、あ、はい…」



ーやっぱり、駄目か…



もう、この相談会はお開き、そういうことなのだろう。

私と話すことは、もうないと。

澤田から、トレイに視線を落とし、持って行きやすいようにまとめた。

ガサガサ、紙のたてる音が、煩わしく思える。



「ほら、これに入れて」



冷たくなってしまった代物を抱えた私に、澤田が紙袋を差し出してくれたので、小さく頭を下げてから、受け取り、中に入れた。



「さ、出よ。」



短くそう言った澤田は、そのまま階段へと躊躇いなく進んで行く。
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