いろはにほへと
「わりーけど、あんま食欲ないんだわ」

「いいから」


振り返ることなく答える俺に、歩み寄った孝祐は、強引に俺の腕を掴む。


「……本気で」


冷ややかに言うと、ふぅっと溜息が聞こえ、腕も放された。


「じゃ、ここで良いからさ、少し話せない?」


俺と孝祐はそれぞれマンションを持っていて、バス停から暫く歩くと到着する。公園を挟んで向こう側とこっち側、というようなご近所さん。


だから、孝祐が今言った「ここ」とは、まさにその公園の事を指す。



「ー何を?」


孝祐が言いたい事は分かってはいたが、話したい気分でもなく、正直な所放っておいて欲しい。



だけど。



「ひなのちゃんのことだよ。」


しん、と静まり返る道、照らす街灯。

はっきりと躊躇うことなく提示された論題は、はぐらかす事が出来ない。


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