いろはにほへと
頷いたら楽になるのに
9月20日。
「行って来ます」
「行ってらっしゃい」
父と揃って玄関を出ると、母がいつものように見送ってくれた。
「卒業まであと半年もないんですね。」
「はい。」
感慨深げに呟く父に、私は頷いた。
ジーワジーワと寝坊して出てきた蝉が、力なく鳴いている。
陽射しは変わらず厳しいが、身体も幾分暑さに慣れてきて、そんなに疲れなくなった。
「今日は、澤田さんの家で一緒に勉強しようと誘われているんです。」
私が言うと、父は、ほぉ、と声を出した。
「そうなんですか。澤田さんの家は確かー」
「はい。遠いので、帰りが遅くなると思います。行っても、良いですか?」
歩く度に、自分の長い髪が揺れる。
「勿論です。帰る時に、連絡下さいね。」
駅に着くと、電車が来たことを告げるアナウンスが聞こえた。