いろはにほへと
駅に降り立つと、独特の匂いがして、前回自分が来た時のことを思い出させた。


長いエスカレーターを上り、人混みの中、ぶつかりそうになりながら、必死に澤田の後を追う。

自然と心拍数が上がり、なんとも言えない気持ちになった。


「大丈夫?」


ふいに、澤田が振り返って声を掛けてくれ、小さく頷く。


「ていうかさ、さっきから思ってたんだけどー…」


再び歩き出しながら澤田が周囲を見回し、小声で話し続ける。



「私達、見られてない?」



「ーえ?」



言われてきょろきょろしてみたが、成る程、まだ伸びきっていない前髪、人とよく目が合う。


「そうーかもしれませんね。」



どうしてだろうと頭を悩ませつつ、改札を抜けて、幾多もある出口のひとつに向かった。
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